■期間 2023年5月2日~6日
■新疋田駅→愛発越→高島トレイル→小川朽木→白倉岳→朽木温泉→比良比叡トレイル→比叡山坂本
『奥信濃100』参戦を前に、山歩きの特訓としてコースを計画した。仕事を定時で上がり、特急電車に飛び乗った。コロナ明けGWの車内は相当混雑していて、Karrimorの大型ザックは結構迷惑だったろう。それでも福井でうまい具合に席にありつき、JR新疋田駅に到着した。駅は電車愛に溢れていて、本当に素敵だ。


登山口の新愛発に至る国道161号線は歩道がなく、大型車の往来も激しいところ。そこを深夜に歩くから、こっちもヒヤヒヤだしドライバーさんにとっても心臓に悪い。ライトを明るくして、なるべく早めに気付いてもらうよう気をつけた。途中、路肩に乗って車をかわした時に、落ちていた木の枝で足をひっかいてしまった。今回の旅で唯一負った怪我だ。
1時間半ほどかけて国境スキー場。ゲレンデ跡を上りきったところで初日のテントを張った。車の音がまだ聞こえるところで、しばらくは聞き納めになると思えば五月蠅いとは思わなかった。惣菜パンを一つ食べて眠った。
高島トレイル初日(新愛発→桜峠)

高島トレイルは2日で踏破するつもりでいた。以前スルーハイクした時に比べて今回は荷物が多く、それに伴いタイムも伸びるだろうと、朝4時から歩くことにした。爽やかなブナ林を歩いていたところで、1人の男性が追い付いた。日帰りで行けるところまで、ということらしい。少し言葉を交わして一緒に歩き始めたところ、ストックを途中で忘れてきたことに気付いて元来た道を戻る。装備の差が大きすぎて一緒に行くのはそもそも辛いし、ちょうどいいと言えばちょうどいい。









しばらく進むと休憩中の彼。軽く挨拶して進むとまた追い抜かれ、その後途中ロストして困っていた彼を助ける。なんやかんやと何度を顔を合わせながら鉄塔区間を進むと、逆方向から来る人と出会う。ノースバウンドでスルーハイクをしていて、この日が最終日だったそうだ。連休前の荒天は凄まじかったらしく、それでも試練を乗り越えてゴールを視線の先に捉えた彼の話し方は清々しかった。それからしばらくはソロ状態が続いたものの、抜土を過ぎたあたりで早朝出会った男性に何度目かの遭遇をした。だいぶバテているようで、先に行かせてもらうことにした。彼を見たのはそれが最後だった。ちょっと戻れば抜土のロードだし、ちゃんと生きてはいるだろう。
調子に乗ってペースを上げて進んでいたところ、背後から気配がする。また別のソロが近づいてくるようだ。先に行ってもらおうかと思ってペースを緩めたりしたものの、私と彼の間が詰まることはなく、三重嶽あたりで完全に居なくなった。滑落とかする場所じゃないし、まぁ生きてはいるだろう。武奈ヶ岳に続く稜線は、右手に日本海、左手には琵琶湖。まさに分水嶺の景色を楽しむ一方で、そんな場所だからこそうねる木々に辟易する。日本海から吹く冬の風、雪の重みの厳しさをまじまじと感じる。











水坂峠に降りて二の谷山へ。ここの傾斜は相当きつく、体力どうのというよりかなり怖かったのが数年前の記憶。しかし、改めて来てみればなんてことはなく、ザックの重さがありながらも危なげなく進める。自分の成長っぷりが嬉しくて、ウキウキ気分で上っていると、そんな急登に腰かけている男性がいた。力尽きた亡骸かと思いきや、TRAILBUMのシャツに見たことないブランドのUL系ザックで、手にしているのはワンカップ。絶対只者ではない。話すと東北の方で、ロングトレイルの維持運営に関わっている方らしい。京都の『山と道』に知り合いが居て、これから会いに行くのだそうだ。
彼曰く「高島トレイルはいいね。距離は80キロと短いけれど、フリーキャンプが許されるトレイルなんてここしか無い」。高島トレイルは初心者には厳しいコースだ。エスケープはちらほらあるものの、ロードから公共交通機関までの歩きは何処も相当長い。避難小屋もなければ道中自動販売機すら無い。一部の山頂を除けばほとんど人も居ないし、飲み水の確保も浄水器が必須だ。人が歩ける最低限の整備で維持されたトレイルだという。でも、だからこそフリーサイトが認められるのかもしれない。辿り着けた人だけが許されるご褒美だ。彼はこれから寝場所を探すのだという。ハンモックを張るそうだ。とても恰好良い人だと思った。
山頂周辺には思いの他テントを構える人が多く、よくもまぁこんなところに集まったもんだと感心した。水を上げるのは相当苦労しただろう。先を急ぐ身の私としては、早く桜峠に抜けるのが何より大事で、長い下り道を一気に駆け下りた。鯖街道「国道367号」に抜けた辺りで流水を見つけ、3リットルほど取る。その先の牛舎裏でも水が汲めるのは知っていたが、こっちのほうがちょっと楽なので。4リットルほど背負ってザックは重くなったものの、ロード区間だから関係なく、前回同様行者山の登山口でテントを張るつもりだ。そこで、以前あったはずの牛舎が無くなっていることに気付く。傍にあった井戸も無い。事前に汲んでおいてよかった。ちょうど時刻は夕暮れを過ぎ、手元も若干見えづらくなってきたころ。以前シュラフを張ったのと同じ場所で、今回も夜を越えることに決めた。改めて思ったのは、やっぱりテントは快適だ。




桜峠~朽木小川
夜が明ける前に行動を始めるのも前回同様。何せ前回より時間はかかるはずだから、目が開いたら即行動開始だ。真っ暗な中を歩き、鉄柱の工事場を抜ける。今回はジオグラフィカを導入しているので、迷う心配はほとんどない、といいながら、ちょくちょく道を間違える。というか、前回はGPS無しでよく歩けたもんだと感心する。行者山で朝を迎え、駒ケ岳。ルートから少し離れた山頂で写真を撮ろうとザックを勢いよく下ろすと、腕時計が引っかかりベルトが取れてしまった。見るとクイックリリースのピンが無い。10分ほど周囲を探すも見つからず、以降心拍の取得は諦めて、時計はズボンのポケットに仕舞うことにした。思えば何故かこの時、時計を左手に付けていた。通常スポーツ時は右手に付けるのだが、普段は左手。ハイキングは自分の中では普段扱いだったのかもしれない。利き手がクロスだとこういうところがややこしく、何気ない動作でミスが起こってしまう。








杉林のこれでもかという急登を上り、百里ケ岳。次の目的地はおにゅう峠。ゴール前最後のエスケープだ。当然そのつもりなどなく、ささっと通り過ぎる。ここから先が高島トレイルの神髄なのだ。ジオグラフィカがあれば大ミスはないものの、それでも何度も立ち止まる。今回ナビ機はXperia AceⅡだが、GPS補足や処理速度が足りないようで、歩くうちにルートからずれてしまう。このことに気づいてからPixcel6aをナビにするものの、バッテリーのことを考えればなるべくぺリアに働いてもらいたい。針畑峠を越えるとマーキング無し区間が始まる。改めて、前回よく歩いたと思う。繰り返す急登を抜け、最後の三国峠。気付くと水がほとんど無くなっていて、恐怖を感じながら急いで里に下りた。










桑原バス停に寄り時刻表を確認する。まだ2本バスがあるようだが、私の旅はまだ終わりではない。むしろここが一番の頑張りどころだ。高島トレイルも、この後に行く比良比叡トレイルも過去踏破した区間。特に比良比叡は相当歩き慣れていて、何があっても全く不安は無い。けれども高島トレイルを抜けて桑原から朽木こがわ渓流センター。ここから朽木までどう繋ぐのか。手持ちの山と高原地図に載っているのは破線ルート。谷を直登する道で情報が殆ど無い。渓流センターはキャンプ場になっていて、さらに奥に進んでいく私は明らかに不審者だ。
自動車が入れる最後のところで新道の看板を見つけた。やはりここに道はある。それも新しい道だ。心強い気持ちで川沿いを進む。距離的には1時間もあれば稜線に出られるはず、と思いきや20分ほど行ったところで完全にマーキングを見失う。というより、ピンクのテープがちらほらあるが、これがトレイルマークかどうかが判断できない。スマホの電波も圏外であたりは完全に真っ暗。これ以上進めないと考え、ここで夜をやり過ごすことにした。水だけは豊富にあったのは幸い。





朽木小川~くつき温泉~比良岳
鳥の鳴き声で目が覚めた。すっかり日が昇っている。ちょっと寝過ごしたかと一瞬思ったが、今の自分からすれば夜明け前に行動すべきではないので、ちょうどよかった。一旦は登山口入口近くまで戻ったものの、そこのピンクテープに記載があり、やはりこれがトレイルマークだと確信する。改めてテン泊地まで戻り、こうなったら無理矢理稜線に上がってしまえを進んでいく。しばらく進むと足元にテープが落ちているのに気付く。そうか、木から剥がれていたんだ。進むにつれて水の音は小さくなっていき、ついに途絶えた。目の前には稜線直下のお椀型の急登が立ちはだかり、そこには薄いジグザグの線が見えた。間違いなくここが道だ。フカフカの落ち葉に若干足を滑らせながらも上っていく。プラスチックの破片に気付く。「フェアリートレイル」のマーキングだ。そういやレースのために開拓した道があるって、Webサイトに載っていた。ここのことか! レースで走る道なら、登山者が歩いて登れるわけがない。と言いながら、最後の2メートルはルートを外れ、木の幹を掴んで思いっきり体を持ち上げた。稜線に出た。すぐ目の前に烏帽子岳の道標。これまでと打って変わって綺麗な登山道だ。
休む間もなく先に進む。早く下山したい。そんな風に思いながら山際を進む。山頂を越える道と巻く道の分岐では巻道を選ぶ。上りが無い分楽だと思ったら結構怖い道。さらにその先で一発大ロスト。誤って電線を辿ってしまった。なんのかんのしながらも、少しずつ前には進んでいき、途中で高校山岳部の皆さんと遭遇。若いっていいね、なんて思いながら少しずつ標高を下げていく。杉林に入ったところでギンリョウソウを見つける。白山だと7月だから、やっぱ低山は季節が早い。ついには登山道から林道に抜けたが、獣除けの柵をどう突破していいか分からず結構苦戦する。








久々に街中に出て、朽木のローソンで昼ご飯を買う。惣菜パンにサンドイッチ。ここまでずっとカレー飯とぶっこみ飯のコンボで生きてきたから、それ以外の味覚が有難い。翌日に備えていくつかパンをリュックに詰めて、エビとポテトサラダのサンドイッチをつまみながら次の目的地に向かう。比良比叡トレイル、の前に、「くつき温泉てんくう」だ。受付にザックを預け、久々のお風呂。とにかく気持ちがいい。ここは水風呂とは別にぬるめの源泉(冷泉)湯があって、これがほてった体にちょうどいい。1時間ほど体を休めて、土産屋でトチ餅を頂いてようやく準備完了。蛇谷ケ峰への登山道に入る。



蛇谷ケ峰までの上りは甘えの無いタフな道ではあるけれど、歩き慣れた道だから上手く負荷を調整できる。蛇谷ケ峰の山頂から鶴瓶岳を望む。見慣れた景色ではあるけれど、午後にこの道を通るのは始めだ。とにかく先に進もうとペースを上げる。鶴瓶から下り武奈ヶ岳の上りに取り付くタイミングでちらほら雨が降り始めた。そもそも出発前の天気予報はずっと雨マークで、ここまで晴れていたことがむしろ奇跡だと思っていたら、武奈ヶ岳山頂に着いた頃にはすでに止んでいた。風が強くてポンチョがはためく。邪魔になったので早々に脱ぐ。金糞峠に向かって下っていると逆方向に行く登山者。「風強いっすよ」と私。「いいね、ちょうど暑かった!」と彼。この道程にはナイスガイが多すぎる。
金糞峠から烏谷山に着き、比良岳のあたりで夕暮れを迎えた。平地が広がっていて、過去にも宿泊したことがあるところ。ここを最後のキャンプ地とした。下方に見える滋賀の明かり。久々に人の存在を感じながら眠ることが出来た。










比良岳~比叡山坂本
日が明ける前に行動を始めた。琵琶湖バレイに出るとかなりの強風。雲に包まれているようで、朝日も入りづらい。霧がかった公園に木製人形がそこら中に置かれていて、不思議な世界に迷い込んでしまったような気分になった。が、風が強いので早々に退散し、留まることなくコースを進んだ。比良区間を下山し環来神社。お土産にお札を1枚頂くことにした。














比叡山区間は景観に乏しく、公園区間に入るまであまり面白くはない。ぼけっとラジオを聴きながら歩く。この3日間でジオグラフィカを覚えているので迷いようがない。ゴール時刻を予測しながら歩いていると、「比叡山トレラン」のテープマークがちらほら見られるようになった。近々大会があるようで、試走するランナーも結構いた。なかなかに賑やかな道のりだ。金カム第3シーズンのOP曲で気合を入れてゴールに向かった。
仰木峠を越えると登山道というより公園のような感じになり、気分的にはお散歩に近い。千日回峰行のコースを過ぎて延暦寺に入る。そのまま比叡山坂本に降りようとしたところ、誤って一度出口から出てしまい、入場券を買うことになってしまった。まぁ別に構いません。たいして面白くない道を1時間ほど下って、無事比叡山坂本にゴールした。その後友人に会ってピエリの温泉に入り、出たころから雨が降り始めた。ちょうどよかった。後ほど比叡山トレランのサイトを見ていると、近くのコースで崩落箇所が見つかったそうで、私は上手いことそこを避けられたようだ。

















緊張感を若干はらみながら、それでもその瞬間その瞬間で下した決定は概ね適切だったと思う。事前の下調べと十分な装備を積んでいけば、だいたいの低山は歩ける自身が付いた。
