新卒で入った会社を辞めて、その理由は精神的な疲れによるもので。疲れ切った心のままポケットに30万円を突っ込み、一か月タイを彷徨っていた。そこから帰ってきて再び仕事を始め、時間があれば紀行文を読み漁るようになっていた。椎名誠や小林紀晴を通り、ふと手にしたのが加藤則芳の『メインの森をめざして』だった。当時はまだ登山を始めていなかった自分にとってトレイルの描写は現実味を感じられず、むしろ週に1回出る街の描写のほうに面白みを感じていた。1,000ページを超える量を惰性で読み終え、マウント・カタディンの達成感もほどほどにあとがきに辿り着き。そこでALS発症に触れられていたのを見たときに、一番の衝撃を受けた。そして、本との出会いからつい数年前に亡くなっていて、私との接点を作ることはもう出来ないことを知った時、ひどい喪失感に襲われた。(接点を作る理由など当時は無かったのに、あの時の私は何を悲しんでいたのだろうと不思議に思う)

 それから数年して今の仕事に就き、身近になった白山で登山を覚え、長距離で鍛えた体力とトレイルを組み合わせた時、あの本で知ったロングトレイルと『再会』した。初めて挑んだのが高島トレイルというのはハードルが高かった(1泊2日計画も!)ものの、がむしゃらに挑み続けたのはこの道が加藤さんの関わる道だったからだ。その後、聖地となる信越トレイルにも足を延ばし、苗場山延伸のタイミングで縦走を果たした。北陸新幹線開通でアクセスし易くなった昨今は年に1回は訪れるようになっている。

 時を経てロングトレイルはULの時代に入る。私自身その恩恵を多く預かりながら、それでもここぞというときにKarimmorのクーガーを持ち出すのは、アパラチアン・トレイルを踏破した加藤さんの背中を追っているからだ。全ての重みを受け入れて、ゆっくり流れる時間を使って風景や空気を味わう。彼の見た景色と重なっていれば嬉しい。

投稿者 DiSpa.